猫のトラウマ
彦島の入口、関彦橋(かんげんきょう)渡って
すぐ右、にロータリーというバス停があり、
そこはバス路線の分岐点となっていた。
もう10年以上前になるが、そのバス停の
ベンチの上に、いつの頃からか”大きな猫”が
居座るようになった。普通の猫より2まわり
大きな、明るい茶色の毛のトラネコのようだったが、
もしかしたら血統書付きの舶来の猫だったかも
しれない。
しかも一日中いるというのではなく、人通りの少なく
なる夜間になってから現れるのだった。
まだバスが通り、人が乗り降りするのにもかかわらず、
ドッカとベンチにのっかって、微動だにしない。
なんともふてぶてしい猫だった。
その猫が歩いている姿を見たこともなく、どこから
来るのかもわからなかったが、長い月日そこに
いるので、人々の話題にのぼるようになっていた。
その頃過激なペット・ブームの影響で、
外国産の犬猫がたくさん輸入されていた。
またその反面、他人のペットを勝手に
取って行ってしまう困った人たちも横行していた。
ある夜その手の1人が、その猫をさらっていこう
としたが、岩のように動かない。なんとか抱きかかえ
ても、その巨体の重さでかかえ続けることができず
落としてしまって、猫は逃げてしまった。
たまたま通りかかった自分は、なぜか猫に拍手喝采
をしたい気分だった。
ある小雨の降る日、片手に物をぎっしり詰めた
重いカバンと、もう片手にB2の水貼り用のパネルと
トランペットの楽器ケースを持っていた。
いつもバスの降車口から勢いよく飛び降りるのが
クセだったので、その日も同じ用に行動した。
いかんせん両手に重い荷物を持っていたので、
地面に着地した瞬間、両手が下に引っ張られて
「グキッ!」
と首に激痛が走った。
今思えば、それが今に至る肩痛の始まりだった。
自業自得だ。
あまりの痛さに、思わずデカ猫ののっている
ベンチの空いたところに荷物を置いてしまった。
するとどうだろう。
今まで動くところなど見たこともないその猫が、
驚くほどの敏捷さで逃げていった。
驚かせる気は毛頭なかったのに。
それ以後ベンチにのっているのを
一度見たが、自分の姿を見ると
すごすご去っていってしまった。
それから猫の姿は見ない。
あの日のことがトラウマになったのか。
今はざんげの気持ちも込めてこれを
書いている。
彼(彼女かもしれないが)のために、
マル・ウォルドロン「レフト・アローン」
の中で「レフト・アローン」より好きな
「キャット・ウォーク」を贈ろう。
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